サイバー防御法案とは?──政府が導入を目指す「能動的サイバー防御」の全貌とその論点を徹底解説

近年、サイバー攻撃の高度化と頻発化に伴い、日本政府は「能動的サイバー防御(Active Cyber Defense、以下ACD)」の導入を進めています。2025年4月8日には関連法案が衆議院を通過し、実現に向けて大きく動き出しました。
正式名称:重要インフラのサイバー攻撃への対処に関する関係法律の整備に関する法律案
能動的サイバー防御(ACD)とは?
ACDとは、政府が通信を平時から監視・分析し、サイバー攻撃の兆候があれば、攻撃者のサーバーに先制的にアクセスして無力化する手法です。
従来の「侵入された後に対応する」防御と異なり、攻撃を未然に防ぐための積極的アプローチであり、日本では初の本格導入となります。
法案の背景と目的
日本を含む世界各国では、国家主導のサイバー攻撃が急増しており、電力や交通、通信といった重要インフラが標的になる事例も目立ちます。
これを受けて、政府は2022年に策定した「国家安全保障戦略」の中でACDの必要性を明記。防衛のみならず、経済安全保障の観点からも重要とされ、今回の法整備が進められました。
法案の概要(2025年提出・衆院通過済み)
通信情報の収集・分析
国外とやり取りされる通信(外内・内外通信)や、国外同士の通信が日本を経由する場合(外外通信)について、IPアドレスや時刻、通信量などの機械的情報を政府が常時収集・分析。
攻撃兆候への対処
攻撃が確認された場合、政府は相手のサーバーに侵入して機能停止や無力化を行うことができる。
独立監視機関の設置
プライバシー保護のため、政府から独立した「サイバー通信情報監理委員会」を新設し、運用を監視。
官民連携体制の整備
電力会社や鉄道などの重要インフラ事業者に通報義務を課すとともに、政府との連携で迅速に対応できる枠組みを整備。
期待される効果
- サイバー攻撃の予兆を早期に察知し、被害を未然に防止
- 攻撃元への迅速な反撃と封じ込め
- 電力や医療、交通など重要インフラへの被害抑制
- 攻撃者への強い抑止効果
懸念点と課題
通信の秘密・プライバシーとの衝突
憲法21条の「通信の秘密」を制限しかねないという批判があります。政府は「必要最小限の情報に限る」と説明していますが、国民への説明不足との声も。
将来的な監視範囲の拡大懸念
現在は「国外に関係する通信」に限っていますが、将来的に国内通信も対象になるのではないかという不安が拡がっています。
独立機関の実効性への疑問
監理委員会の実質的な独立性や監査権限の弱さに懸念があり、「政府に都合のよい運用にならないか」との声も上がっています。
今後の見通し
法案は現在、参議院で審議中で、可決されれば2027年を目処にACDが本格運用開始となる見込みです。
その際、政府と国民との間で、「安全保障」と「自由・人権」のバランスについて深い議論が求められます。特に、通信の秘密やプライバシーをどこまで守るのかが今後の大きな焦点です。
まとめ
サイバー攻撃の脅威が現実化する中で、政府の能動的な防御はもはや不可避とも言えます。しかし、その運用には慎重な姿勢と国民的な合意が不可欠です。
今後も、私たち一人ひとりがこの議論を「自分ごと」として捉え、情報をアップデートしながら見守っていくことが大切です。
サイバー防御法案に関するクイズ
- クイズの解説
-
1問目
能動的サイバー防御(ACD)の主な目的は何ですか?
正解:サイバー攻撃を未然に防ぐ
解説:
ACDの目的は、攻撃を受ける前にその兆候を察知し、攻撃元を無力化することです。通信速度の向上や個人情報の販売とは無関係で、ネット接続の遮断も目的ではありません。
2問目
サイバー防御法案で政府が監視する通信の種類は?
正解:国外と関係するインターネット通信
解説:
法案では、外内・内外・外外通信(国外と関係する通信)を対象としています。電話通信やSNS投稿の内容までは含まれていません。
3問目
ACDで収集される通信情報の内容はどれか?
正解:IPアドレスや時刻などの機械的情報
解説:
通信内容の本文は含まれず、IPアドレスや日時など「機械的情報」に限定されています。プライバシー配慮のため、内容の監視は行いません。
4問目
ACDの導入により最も期待される効果はどれか?
正解:サイバー攻撃の早期検知と防止
解説:
目的は攻撃を未然に察知し、早急に封じ込めること。ネット料金や広告配信、スマホ普及とは無関係です。
5問目
ACDの運用監視のために設置される組織は?
正解:サイバー通信情報監理委員会
解説:
政府の運用を監視するための独立機関として設置されます。他の機関(防衛省、国家公安委員会など)とは異なります。
6問目
サイバー防御法案が通過したのはどの機関?
正解:衆議院
解説:
2025年4月に衆議院本会議で可決されました。行政機関や司法機関ではなく、立法府である衆議院です。
7問目
ACDが対象とするサイバー攻撃の主体として想定されるのは?
正解:国家が関与する組織的攻撃
解説:
国家主導の組織的・高度な攻撃が想定されています。単なる個人のいたずらではありません。
8問目
ACDにおいて、政府が直接侵入できる対象は?
正解:攻撃者のサーバー
解説:
ACDの措置では、攻撃の発信元であるサーバーに侵入して無害化することが認められます。個人端末などではありません。
9問目
ACDが発動される条件は?
正解:攻撃の兆候が検知されたとき
解説:
攻撃の予兆が確認された場合にのみ発動される仕組みで、通常時や他の理由では実施されません。
10問目
ACDの導入に伴い、国民の何が懸念されている?
正解:通信の秘密やプライバシーの侵害
解説:
通信の秘密が侵される可能性があるため、憲法21条との兼ね合いで懸念が広がっています。
11問目
ACDの収集対象である「外外通信」はどのような通信か?
正解:外国間の通信が日本を経由するもの
解説:
「外外通信」とは、海外同士の通信が日本のインフラを経由するものを指します。国内通信は含まれません。
12問目
ACDを導入した背景として最も関係が深いのは?
正解:国家によるサイバー攻撃の増加
解説:
背景には、外国政府やその支援を受けた団体による攻撃の増加があります。技術革新や流行とは関係ありません。
13問目
ACDで「通信の秘密」を制限することが許される根拠は?
正解:国家安全保障のため必要最小限の制限
解説:
憲法が保障する権利であっても、国家の安全を守るために必要最小限の制限は認められています。
14問目
サイバー防御法案の正式名称は?
正解:サイバー対処能力強化法案
解説:
報道などでは「サイバー防御法案」と呼ばれますが、正式名称は「サイバー対処能力強化法案」です。
15問目
法案成立後、ACDの本格運用はいつを予定している?
正解:2027年中
解説:
法整備・体制構築を経て、2027年中の運用開始を予定しています。即時ではありません。
16問目
ACDの導入はどの文書に基づく方針か?
正解:国家安全保障戦略
解説:
2022年に改定された国家安全保障戦略に、ACDの導入が明記されました。
17問目
ACDに反対する主な理由は?
正解:プライバシー侵害の懸念
解説:
最も大きな懸念は、通信の秘密や個人情報への侵害が起こる可能性がある点です。
18問目
ACDでは誰が侵入措置を実行するのか?
正解:内閣官房のサイバー部門
解説:
侵入措置は、内閣官房内の専門機関が行う予定であり、裁判所や国会議員ではありません。
19問目
ACDで分析される情報は?
正解:通信のヘッダーなどの技術情報
解説:
内容本文ではなく、通信の宛先・発信元・時間などの「ヘッダー情報」が対象です。
20問目
ACDの法案で、事業者に求められるのは何か?
正解:攻撃を受けた際の政府への報告義務
解説:
重要インフラ事業者などには、サイバー攻撃を受けた際の迅速な通報が義務づけられます。