日本とNATOの協力関係とは?──対話から技術連携、インド太平洋安全保障の最前線へ

近年、日本と北大西洋条約機構(NATO)との関係が急速に深まりを見せています。2025年には、軍民両用技術の協力や安全保障分野での連携強化が発表され、「地理的に離れた日本とNATOがなぜ協力を?」と疑問を持つ人も多いはず。
この記事では、日本とNATOの協力の歴史、現在の枠組み、具体的な内容、他国との比較、今後の展望までを解説します。
NATOとは?
NATOとは、1949年に設立された北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)であり、欧米を中心とした集団防衛機構です。加盟国は2025年現在でアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどを含む31カ国にのぼります。NATOの基本理念は「一国が攻撃されれば全体への攻撃とみなす(第5条)」という集団的自衛権の考え方であり、冷戦期から現在まで欧州の安全保障の中核的存在となっています。
日本とNATOの協力はいつから始まったのか?
日本とNATOの協力は1990年代に始まりました。当初は冷戦終結後の国際秩序の中で、政治対話を通じて関係が構築されました。2000年代前半には、平和維持活動(PKO)や復興支援といった分野で日本が貢献し、実務的な関係が深まりました。
2013年には「日NATO共同政治宣言」が発表され、ここからはテロ対策、サイバー防衛、大量破壊兵器の拡散防止、自然災害対応など、より幅広い分野で協力が進みました。資金的な支援や人材派遣を通じて、日本はNATOの信頼できるパートナーとしての地位を確立していったのです。
現在の協力関係(2020年代〜)
2022年以降、日本の首相はNATO首脳会議に複数回出席するようになり、欧州諸国との関係強化が注目されました。ロシアによるウクライナ侵攻や中国の海洋進出などを背景に、日本とNATOは共通の戦略的懸念を抱くようになり、関係は“戦略的パートナーシップ”と呼ばれるまでに深化しました。
2025年4月には、日本とNATOが軍民両用技術(デュアルユース技術)の分野で協力を加速することで合意しました。この中では、宇宙、AI、量子技術といった先端分野での標準化、共同研究、情報共有の推進が盛り込まれ、NATO事務総長からは「日本は信頼できるパートナーである」とのコメントも発表されました。
技術連携の中身とは?
軍民両用技術の共同開発においては、AIや半導体、宇宙技術などの民間由来の先端技術を、防衛分野に活用する取り組みが進められています。これにより、日本の民間企業もNATOの技術基準や標準化ルールへの参画が期待されており、産官連携の推進が求められています。
サイバーセキュリティの分野では、NATOのサイバー防衛拠点であるエストニアの「協力的サイバー防衛センター」と日本の内閣サイバーセキュリティセンターや防衛装備庁との間で、共同訓練や情報共有が行われています。これはサイバー攻撃への備えを日欧で連携して強化する動きの一環です。
また、宇宙分野においても連携が進んでいます。NATOは2020年に宇宙空間を「作戦領域」と認定しており、日本も同時期に航空自衛隊内に「宇宙作戦隊」を創設しました。衛星監視や宇宙空間の状況把握に関して、NATOとの連携強化が模索されています。
日本はNATOに加盟していないのに、なぜここまで連携するのか?
この背景には、まず第一に日本とNATOが共通して「民主主義」「法の支配」といった価値観を重視しているという点があります。これはNATOの基本理念とも一致するものであり、国際社会における安定的な秩序の維持という目標において、日本とNATOは理念的にも共鳴しています。
次に、世界的な安全保障環境の変化があります。ロシアによるウクライナ侵攻、中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル開発など、NATOの加盟国と日本が共通して直面する脅威が増加しています。これに対処するため、地域を超えた連携が不可欠になってきました。
さらに、日米同盟の存在も重要な要素です。アメリカはNATOの中核であると同時に、日本と安全保障条約を結ぶパートナーでもあります。そのため、日本がNATOと協力することは、日米同盟の補完的な意味も持ち、自然な流れとなっているのです。
他の“インド太平洋パートナー”との比較
日本と同様に、NATOとの連携を強化している国々に、オーストラリア、韓国、ニュージーランドがあります。これらの国々は「インド太平洋パートナー(IP4)」と呼ばれ、2022年以降はNATO首脳会議にも参加しています。
オーストラリアは準加盟国と呼ばれるほど関係が深く、軍事演習やAI分野、海洋監視などでの連携が進んでいます。韓国も日本と同程度の関係性を持ち、特にサイバー防衛やテロ対策分野で協力が強化されています。ニュージーランドは主に災害支援や人道援助分野で連携しており、今後さらに広がる可能性があります。
今後の展望
今後の注目点としては、日本にNATOの連絡事務所を常設する案が再び浮上してくる可能性があります。2024年には一度見送りとなりましたが、安全保障環境の変化によって再検討の機運が高まることが予想されます。
また、防衛装備品の共同研究や共同開発の動きも今後本格化するとみられています。海洋安全保障に関しては、NATOと日本が情報共有や合同訓練を拡充する可能性が高く、これまで以上に実務的な協力が進むことが期待されます。
まとめ
1990年代から始まった日本とNATOの協力関係は、2013年の共同政治宣言を経て、現在ではサイバー防衛や宇宙・AI分野などの先端技術での実務的な連携へと進化しました。今後は連絡事務所の設置や装備品開発、海洋監視など、新たな分野への拡張も視野に入っており、日本は地理的距離を超えて、NATOの「グローバルな戦略的パートナー」としてその役割をますます強めていくでしょう。